なんだか暇だったのでピエロ屋さんに行くことにする。
入口の壁に貼られた、『世界最大規模のピエロ専門店!』というチラシは随分古くみえる。
赤鼻ピエロ、涙もろいピエロ、軽業ピエロ、ふとっちょピエロ、手品師ピエロ・・・。
棚には色んなピエロが並んでいて、目を向けると皆一生懸命芸をする。
BGMはいつでも『剣士の入場』だ。
ちゃんちゃんちゃかちゃかちゃんちゃんちゃーら・・・
ちゃんちゃんちゃかちゃかちゃんちゃんちゃーら・・・
「おお、ゆうちゃん。いいの入ったよ」
「なんですか」
「黄色の玉乗りピエロだ。黄色は珍しいだろ。よく跳ねるよ」
「いいですね」
「ゆうちゃんはお得意さんだから、500円でいいよ」
「いただきます」
夜、机の上で、黄色の玉乗りピエロは様々な玉乗り曲芸を披露した。
わたしが小さく拍手をすると、得意そうに胸をそらして、ピエロは丁寧なお辞儀をした。
「めをつぶって?」
「めをつぶった」
「見えない?」
「見えない」
「ほんとう?」
「ほんとう」
「これは?」
「さあね」
「私が今何してるか分かる?」
「君が何してるか分からない」
「貴方を刺そうとしています」
「嘘?」
「貴方の思うとおりです」
「嘘?」
「貴方の思うとおりです」
「嘘?」
最近、小夜子さんはずっと空を見ている。
何もしていないとき。
授業の合間。
ご飯の合間。
会話の合間。
つまり、そうすることのできる間は、ずっとだ。
不思議なので訊いてみた。
どうしてずっと空をみてるの?
小夜子さんは少しだけ考え、
ああそのこと、と微笑んで、
いつもの、あの不思議な優しい声で、
「意味はね、あまりないの」
「けれど、あまり意味がないことをしてしまうことって、ないかしら」
「たとえば、痛いところを、痛いと知っているのに、ちょっとだけ触ってみたりしない?」
「たしかめてもしかたがないことを、たしかめてもしかたがないと知っているのに、
それはわかっているのに、
どうしてか、
無意識に、
なんとなく、
それをたしかめてしまうことはない?」
つまり、そういうことなの、と小夜子さんはいった。
わたしは、そういわれると確かにそういうことはあるな、と思ったので、
そうだね、そういうことって結構あるかも、と答えた。
それから、そう思えたことが嬉しくなって、えへへへへと笑った。
「じゃあ、また明日。小夜子さん」
「あのね、私、明日、学校には行けないと思うの」
「え、どうして?なにか用事?明日どっかに行くの?」
「そうかも」
小夜子さんは皆勤なのにもったいない。
でも、小夜子さんはこうみえて頑固なので、休むといったらどうしても休むだろう。
小夜子さんのいない学校はつまらないけれど、しかたがない。
小夜子さんは、何の理由もなくそういうことをする人ではないのだ。
きっと明日、小夜子さんにとって、とても大事な用事があるんだろう。
「じゃあ、しかたないね」
「ええ、しかたがないわ」
わたしが、じゃあまたね、というと、
小夜子さんはいつものように、さようなら、といった。
それから、わたしたちは駅の前で別れた。
小夜子さんは、いつもの電車に乗って隣の街に帰っていった。
その日の夜、
隣の街に流れ星が降った。
ものすごい音がして、
向こうの空が、曇りの日みたいに明るくなって、
風と砂がびょうびょうと吹いた。
次の朝、隣の街には大きなクレーターができた。
テレビはどこも、流れ星と隣の街のことを映している。
空にはクレーターを見下ろすために、たくさんのヘリコプターが飛んでいた。
そのクレーターの真ん中に
小夜子さんは
アフリカのサバンナから、本場のライオンがやってきた。
目的は日本の獅子舞の視察だ。
この日のために必死に練習を重ねてきた、
岸田兄弟の渾身の獅子舞を見ながら、
ライオンは緑の眼鏡を額に上げて秘書にささやく。
「どうも腰の振りがいまいちだな・・・」
友達に、やたらと運がいい男がいる。
この間、家にきたときお茶を出したら、茶柱が4本も立っていた。
「あのさ」
「なに?」
「キョロちゃんのカンヅメ、いらない?宇宙缶とかさ」
「いや、あんまり・・・なんで?」
「余っちゃってね」
6缶あるそうだ。
帰り際に、じゃあ金のエンゼルいる?という。
や、いらないよ。
ひろむ君の手品はちょっと変わっている。
使うのは、ドラム缶と布。
ドラム缶に布をかぶせ、3つ数えて、布を取るのだ。
「スリー、ツー、ワン・・・、はいっ!」
ひろむ君の掛け声と共に、突如轟炎と、噴煙が巻き起こり、
ドドドドドドドと音を立て、ドラム缶は宇宙に向かって発射される。
白い飛行機雲をまっすぐ伸ばして、
ひろむ君のドラム缶はどこまでも高く飛んでいく。
そして二度と帰ってこない。
いつだったか、手品の仕掛けがわからないのが悔しくて、
ひろむ君に内緒で尋ねたことがある。
どうやってるの?と訊くと、
ひろむ君は「ぜったい内緒だよ?」といった後、
「僕も、どうしてああなるのか、わからないんだ」
と、そっと耳打ちしてくれた。
先日発表されたオオサワ博士の研究は、
学会で注目され、様々な議論を呼んでいる。
『自分の耳を王様の耳と取り替えられてしまったロバについての研究』
「我々は、王様に同情するあまり、
その影にあったもうひとつの悲劇について、
あまりにも無関心だったのではないか、
そう、わたくしは考えるのであります」
オオサワ博士は、壇上でそのように述べたという。