とても長い廊下。
橙色のぼんやりした灯かりで、終りがないようにみえる廊下。
そういう廊下なので、とても静かだ。
わたしはそこをゆっくりと歩いている。
それはほんとうにとてもゆっくりなのだけれど、
廊下があんまり静かなので、わたしの靴音はとても大きくきこえる。
左側の壁にはなにもない。
古びた壁紙と、古びた漆喰の壁。
しみ。埃や煤や脂のよごれ。ひび。
それが左側の壁。
右側の壁には延々と扉が続いている。
いろんな扉がある。
重そうな扉。壊れそうな扉。鉄の扉。
立派なノッカーの付いた扉。宇宙船のような扉。
和風の扉。洋風の扉。白い扉。
古そうな扉。とても美しい扉。硬そうな扉。
覗き窓のある扉。鍵穴のない扉。ちいさな扉。
扉の向こうに人気はなく、
廊下にはわたししかいない。
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