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2024/03/19 19:39 |
紅茶の雨
ある日
 
南南西の空から琥珀色の雲がやってきて
 
角砂糖でできた街に
 
紅茶の雨が降りはじめる
 
 
適切な温度と
 
理想的な濃度を保ったまま
 
 
おびただしい湯気や
 
すばらしい香りとともに
 
 
雲間から射す夕陽をあびて
 
金糸のようにきらめきながら
 
 
角砂糖でできた街に
 
紅茶の雨が降りそそぐ
 
 
家々は屋根から順番に溶けていき
 
もとは大通りであった場所を流れる紅茶の川に

ちょうどよいくらいの甘みを添えてゆく
 

人々は

のどまで美味しい紅茶で一杯にして

およいだり

ういたり

しずんだりしながら

ゆっくりと流れていく
 
 
あたたかで

うつくしく

おだやかで
 
良い香りのする終末の風景
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2011/09/08 23:25 | Comments(0) | TrackBack() | 短片
ゆうちゃんの家にいく話

ゆうちゃんの家にいく。

呼び鈴を押す。


ぴぽーん ぴんぽーん ぴ・・・ぽーん


ゆうちゃんの家の呼び鈴は、押し方を変えると色んな音がでるのが面白くて好きだ。


「はいはいはい・・・、あらみっちゃん、いらっしゃい」

「こんにちは。ゆうちゃんに、プリントを届けにきたんです」

「まあ、それはありがとう。それじゃあ、あがっていって。実はきのう新しい子が」

「ゆうちゃんはもう平気なんですか」

「ええ、もう熱なんかないんだけどね、意地張って寝てるの。ほら、この子なん」

「じゃあ、お邪魔します」


ゆうちゃんのお母さんは、爬虫類マニアだけど、とても優しいから好きだ。

階段をあがる。


とんとんとん


「あ、みーちゃんだー。おはよー」

「また寝てたんですか」

「ゆっきとあそびにきたの?」

「また寝てたんですね」

「せっかく来たんだから対戦しよーよー」

「ゆうちゃんと一緒なら」

「えええー、ゆっきリモコン投げてくるからやだー」


ゆうちゃんのお姉さんは、あんまり人の話を聞かないけど、面白いから好きだ。

廊下を歩く。


ぱたんぱたんぱたん


「あ、こんにちは」

「ああ、こんにちは」

「ゆうちゃんに、プリントを届けにきたんです」

「そうですか、それはありがとう」

「どういたしまして」

「うん」

「じゃあ」

「ええ、じゃあ」


ゆうちゃんのお父さんは、口下手であんまり会話が続かないけど、優しい目だから好きだ。

ドアをノック。


こんこんこん


「どちらさまですかー」

「さあ、どちらさまでしょう」


かちゃり、とドアがひらく。


「こんにちは、ゆうちゃん」

「こんにちは、みっちゃん」

「具合は如何?」

「見ての通り。そちらこそ、具合は如何?」

「見ての通り」


真面目な顔を見合わせて、それからわたしたちは吹き出して笑う。

ゆうちゃんは、わたしのことを知っているのに、ほんとうに笑ってくれるから好きだ。


2009/12/01 20:59 | Comments(0) | TrackBack() | 短片
みっちゃんの家にいく話

みっちゃんの家に行く。

チャイムを押す。


キンコーン キンコーン キンコーン


このチャイムの音は好きだ。


「あら、ゆうちゃんいらっしゃい」

「こんにちはおばさん。あの、みっちゃんにプリントです」

「美知なら部屋にいるわよ」

「あ、じゃあお邪魔します」

「ええ、ゆっくりしていって」


みっちゃんちのおばさんは優しいけど、目が笑ってないから苦手だ。

階段を昇る。


とんとんとん。

「あ、ゆうちゃんじゃない。どうしたの?」

「みっちゃんにプリント届けにきたの」

「ねね、それよりいっしょに遊ぼうよ」

「えっとね、今日はピアノだから」

「そんなのいいじゃん?ほらこっちきなよ」

「ごめんね」


みっちゃんのお姉さんは優しいけど、いきなり耳を舐めたりするから苦手だ。

廊下を歩く。


とてとてとて


「あ、こんにちはー」

「・・・」

「みっちゃんにプリント届けにきたんです」

「・・・」

「あ、じゃあ」

「・・・」


おじさんはいつもニコニコしてるのに、私のことを無視するから嫌いだ。

ドアをノック。コンコンコン。


「なに?」

「みっちゃん、プリント持ってきたよ。大丈夫?」

「ああ、ゆうちゃん。ありがとう。もう平気よ」

「よかった。気にしないで」

「あ、ゆうちゃん」

「なに?」


「また、きてね。絶対よ?」


みっちゃんはいつもそう言って笑う。にっこり。

手首に包帯をぐるぐる巻かれて、右の足首とベットを手錠で繋がれているみっちゃん。


みっちゃんはなにもかも全部分ってて笑う。


それでも私はみっちゃんが好きだ。


2009/12/01 20:58 | Comments(0) | TrackBack() | 短片
大人 -Doubt-

「あ、ちょっと。キミ」


コンビニに行く途中の交差点で、おっさんに呼び止められた。


「なんですか?」


私は努めて胡散臭そうに見える顔をし、ポケットの中で携帯を探しながら尋ねた。


「あそこに」


そう云いながらおっさんは歩道橋の階段のあたりを指差す。

指の先にはおっさんがもう一人。

おっさんの眼鏡がきらりと光るのを見ながら、おっさん尽くしだと私は思った。


「男の人が居るだろう?」

「はあ確かに」


そうおっさんがいう。おっさんのネクタイがよれよれなのが気になった。


「あの人はちょっとおかしい人だから気をつけなさい」

「はあ」


おっさんは、それだけいうともう私には目もくれなかった。

変なおっさんか。それはちょっと嫌だ。

目を合わせないように歩道橋を昇る。


「あ、ちょっと。キミ」


案の定おっさんに呼び止められた。


「なんですか?」


私は努めて胡散臭そうに見える顔をし、ポケットの中で携帯を探しながら尋ねた。


「あそこに」


と云いながらおっさんは角の家の塀のあたりを指差す。指の先にはさっきのおっさん。

おっさんの額がきらりと光るのを見ながら、おっさん尽くしだと私は思った。


「男の人が居ただろう?」

「はあ確かに」


そうおっさんがいう。おっさんのネクタイがしわしわなのが気になった。


「あの人はちょっとおかしい人だから気をつけなさい」

「はあ」


おっさんは、それだけいうともう私には目もくれなかった。

大人は大変なのだな、と思って、パンを買って遠回りで帰った。


2009/12/01 20:53 | Comments(0) | TrackBack() | 短片
無題

丁寧に吹いたシャボン玉を日陰でよく干して

乾いて小さくなったのをやわらかい布で気長に磨くと

つやつやした、質のいい、とても軽いビーズができる


そういうビーズを真珠のように小箱にとっておいて

銀を引き伸ばしてつくる特別細い針と

上等な絹糸の中からとりわけ選りすぐった白い絹糸で

泡のような

ささやかな首飾りをつくる


割らないように

息を凝らしながら


石鹸のにおいがする首飾り


2008/04/29 00:50 | Comments(0) | TrackBack() | 短片
文々堂のえんぴつ

やっと、おこづかいがたまったので、

念願のえんぴつを買いに、文々堂にいく。

カランカラン


「・・・いらっしゃい」

「あの、えんぴつが一本ほしいんです」


そういうと、

えんぴつ一筋80年の文岡文衛門さん(88)の眼はギラリと輝き、

鋭い視線がとわたしをつき刺す。

文衛門さんは、上から下までじろじろとわたしを眺めまわし、

名前、歳、生活環境のことなど、いくつかの短い質問をする。


「手」

「はいっ」


文衛門さんのぶっきらぼうな声。

わたしはすぐに手を差し出す。


文衛門さんの職人芸は、この、手の見立てからはじまる。


文々堂印のえんぴつは、

屋久島の縄文杉(樹齢1200年相当)から、

持ち主の手にあわせた太さに削りだされる最高級品だ。


芯は、黒だけではなく、

名前のある色なら、どんな色もある。


えんぴつは黒に限る、というえんぴつ職人が多いなか、

文衛門さんは、「黒を守るだけが、えんぴつじゃあねえんだ」

と、一人えんぴつの未来を見据え、独自の方針を貫いている。


芯はえんぴつの命なので、

詳しいことはよくわからないけれど、

そこには文衛門さんの職人魂がこめられているのだ。


形、色、長さ、固さ、濃さなど、一通りの事を相談する。

いつのまにか、外は夕焼けだ。

遠くから、どこかの学校の鐘の音が聞こえる。


「三月はかかるよ」

「はい、お願いします。御礼の方は」

「できてからでいい」

「そうですか。・・・あ、あの」

「七夕には必ず間に合わせるから、安心しな」

「・・・!ありがとうございますっ!」


七夕はわたしの誕生日なのだ。

文衛門さんは、最後に少しだけ微笑んで、こう云った。


「名前は、いれるかい」


2007/12/12 01:25 | Comments(0) | TrackBack() | 短片
廊下の夢

とても長い廊下。

橙色のぼんやりした灯かりで、終りがないようにみえる廊下。

そういう廊下なので、とても静かだ。


わたしはそこをゆっくりと歩いている。

それはほんとうにとてもゆっくりなのだけれど、

廊下があんまり静かなので、わたしの靴音はとても大きくきこえる。


左側の壁にはなにもない。

古びた壁紙と、古びた漆喰の壁。

しみ。埃や煤や脂のよごれ。ひび。

それが左側の壁。


右側の壁には延々と扉が続いている。

いろんな扉がある。


重そうな扉。壊れそうな扉。鉄の扉。

立派なノッカーの付いた扉。宇宙船のような扉。

和風の扉。洋風の扉。白い扉。

古そうな扉。とても美しい扉。硬そうな扉。

覗き窓のある扉。鍵穴のない扉。ちいさな扉。


扉の向こうに人気はなく、

廊下にはわたししかいない。


2007/11/23 19:40 | Comments(0) | TrackBack() | 短片
卓上サーカス

なんだか暇だったのでピエロ屋さんに行くことにする。


入口の壁に貼られた、『世界最大規模のピエロ専門店!』というチラシは随分古くみえる。

赤鼻ピエロ、涙もろいピエロ、軽業ピエロ、ふとっちょピエロ、手品師ピエロ・・・。

棚には色んなピエロが並んでいて、目を向けると皆一生懸命芸をする。


BGMはいつでも『剣士の入場』だ。


ちゃんちゃんちゃかちゃかちゃんちゃんちゃーら・・・

ちゃんちゃんちゃかちゃかちゃんちゃんちゃーら・・・


「おお、ゆうちゃん。いいの入ったよ」

「なんですか」

「黄色の玉乗りピエロだ。黄色は珍しいだろ。よく跳ねるよ」

「いいですね」

「ゆうちゃんはお得意さんだから、500円でいいよ」

「いただきます」


夜、机の上で、黄色の玉乗りピエロは様々な玉乗り曲芸を披露した。

わたしが小さく拍手をすると、得意そうに胸をそらして、ピエロは丁寧なお辞儀をした。


2007/11/09 00:13 | Comments(0) | TrackBack() | 短片
可能性に満ちた会話 -Uncertain answers-

「めをつぶって?」 

「めをつぶった」 

「見えない?」 

「見えない」 

「ほんとう?」 

「ほんとう」 

「これは?」 

「さあね」 

「私が今何してるか分かる?」 

「君が何してるか分からない」 

「貴方を刺そうとしています」 

「嘘?」 

「貴方の思うとおりです」 

「嘘?」 

「貴方の思うとおりです」 

「嘘?」


2007/11/09 00:13 | Comments(0) | TrackBack() | 短片
諦観

最近、小夜子さんはずっと空を見ている。


何もしていないとき。

授業の合間。

ご飯の合間。

会話の合間。

つまり、そうすることのできる間は、ずっとだ。


不思議なので訊いてみた。

どうしてずっと空をみてるの?


小夜子さんは少しだけ考え、

ああそのこと、と微笑んで、

いつもの、あの不思議な優しい声で、


「意味はね、あまりないの」

「けれど、あまり意味がないことをしてしまうことって、ないかしら」

「たとえば、痛いところを、痛いと知っているのに、ちょっとだけ触ってみたりしない?」

「たしかめてもしかたがないことを、たしかめてもしかたがないと知っているのに、

それはわかっているのに、

どうしてか、

無意識に、

なんとなく、

それをたしかめてしまうことはない?」


つまり、そういうことなの、と小夜子さんはいった。


わたしは、そういわれると確かにそういうことはあるな、と思ったので、

そうだね、そういうことって結構あるかも、と答えた。

それから、そう思えたことが嬉しくなって、えへへへへと笑った。


「じゃあ、また明日。小夜子さん」

「あのね、私、明日、学校には行けないと思うの」

「え、どうして?なにか用事?明日どっかに行くの?」

「そうかも」


小夜子さんは皆勤なのにもったいない。

でも、小夜子さんはこうみえて頑固なので、休むといったらどうしても休むだろう。

小夜子さんのいない学校はつまらないけれど、しかたがない。

小夜子さんは、何の理由もなくそういうことをする人ではないのだ。

きっと明日、小夜子さんにとって、とても大事な用事があるんだろう。


「じゃあ、しかたないね」

「ええ、しかたがないわ」


わたしが、じゃあまたね、というと、

小夜子さんはいつものように、さようなら、といった。


それから、わたしたちは駅の前で別れた。

小夜子さんは、いつもの電車に乗って隣の街に帰っていった。




その日の夜、

隣の街に流れ星が降った。


ものすごい音がして、

向こうの空が、曇りの日みたいに明るくなって、

風と砂がびょうびょうと吹いた。


次の朝、隣の街には大きなクレーターができた。

テレビはどこも、流れ星と隣の街のことを映している。

空にはクレーターを見下ろすために、たくさんのヘリコプターが飛んでいた。







































そのクレーターの真ん中に

小夜子さんは


2007/11/09 00:00 | Comments(0) | TrackBack() | 短片

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