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2024/04/23 23:19 |
文々堂のえんぴつ

やっと、おこづかいがたまったので、

念願のえんぴつを買いに、文々堂にいく。

カランカラン


「・・・いらっしゃい」

「あの、えんぴつが一本ほしいんです」


そういうと、

えんぴつ一筋80年の文岡文衛門さん(88)の眼はギラリと輝き、

鋭い視線がとわたしをつき刺す。

文衛門さんは、上から下までじろじろとわたしを眺めまわし、

名前、歳、生活環境のことなど、いくつかの短い質問をする。


「手」

「はいっ」


文衛門さんのぶっきらぼうな声。

わたしはすぐに手を差し出す。


文衛門さんの職人芸は、この、手の見立てからはじまる。


文々堂印のえんぴつは、

屋久島の縄文杉(樹齢1200年相当)から、

持ち主の手にあわせた太さに削りだされる最高級品だ。


芯は、黒だけではなく、

名前のある色なら、どんな色もある。


えんぴつは黒に限る、というえんぴつ職人が多いなか、

文衛門さんは、「黒を守るだけが、えんぴつじゃあねえんだ」

と、一人えんぴつの未来を見据え、独自の方針を貫いている。


芯はえんぴつの命なので、

詳しいことはよくわからないけれど、

そこには文衛門さんの職人魂がこめられているのだ。


形、色、長さ、固さ、濃さなど、一通りの事を相談する。

いつのまにか、外は夕焼けだ。

遠くから、どこかの学校の鐘の音が聞こえる。


「三月はかかるよ」

「はい、お願いします。御礼の方は」

「できてからでいい」

「そうですか。・・・あ、あの」

「七夕には必ず間に合わせるから、安心しな」

「・・・!ありがとうございますっ!」


七夕はわたしの誕生日なのだ。

文衛門さんは、最後に少しだけ微笑んで、こう云った。


「名前は、いれるかい」

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2007/12/12 01:25 | Comments(0) | TrackBack() | 短片

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