誰も見ていない独り言でも、100年続ければ誰かが褒めてくれるのではないか、ということ。
自分が懐中電灯を持って内側が鏡張りの箱の中にいるところを想像していただきたい。
キッチリ立方体の箱の中はもちろん暗い。自分の手も見えない闇である。
よって、自分はいずれ懐中電灯のスイッチを入れることになるだろう。
むろん、鏡は懐中電灯の光を反射する。
箱が充分に密閉されており、鏡が極めてよく磨きこまれているものであるとする。
すると光はどこへも逃げない。
光が何処にも逃げないのであれば、
時間を追うごとに箱の中はどんどん明るさを増していくはずである。
適度な明るさになったら懐中電灯を切れば、
箱の中は光源なしでも永遠に明るいのではなかろうか。
ところが懐中電灯はスイッチが壊れている。
入ったまま切れない懐中電灯から出る光によって箱の中の光は着実に量を増し、
いずれ直視できないほどの光量に到達。
網膜が焼ききれ、自分は失明する。
なおも光量は増し続け、ついに身体は燃え尽きる。
いずれ熱によって電球が切れ、箱の中はまた真っ暗になる。
そんな自殺をするとき、
合わせ鏡の向こうに見えるものは何か。
扇形の形に切り出した石でもって作られているアーチ型の橋を想像して頂きたい。
あれは、石同士が互いに楔の働きをして、何もしなくても落ちない。
あれをどこまでも大きくすると、地球を一周する輪ができるのではなかろうか。
何の支えも無く、どこも地上に触れていないにもかかわらず、落ちてこない輪である。
つぎに、その輪に対して直角の方向にも輪を作る。
つぎに、二本の輪のいずれに対しても直角の方向に輪を作る。
こうやって輪を増やしていくと、いずれ地球を覆う殻の如き大天蓋ができる。
空中に浮いて、落ちてこない天井である。
すると太陽の光が遮られ、地上は暗黒の世界と化す。
当然植物、動物の類は順を追って滅び、残るのは嫌気性の細菌くらいであろう。
同時に熱循環が空間的に限定されるため、結果的に大気圧が急激に上昇、
いずれ天井を支える重力を超える圧力を持った大気が一部の天井を吹き飛ばす。
すると楔の支えを失った天蓋はその一点を中心に瞬時に崩壊、
落下した天蓋の石は世界中いたるところ隙間無く落下し、
かろうじて形をとどめていた前文明の名残をことごとく粉砕。
同時に天蓋に保持されていた位置エネルギーが一挙に開放、
その大部分が核に向かって垂直方向に加えられるため地球は圧縮される形になる。
結果マントルの圧力が増加し、世界各地の火山および海底火山から噴火がはじまる。
海水温は爆発的に上昇し、これによってかろうじて生き残っていた微生物の類も絶滅、
結果として地球は質量以外は原始状態に逆行する。
数億年後、ごく原始的な微生物のようなものの進化の果てに、
爆発的多様性と淘汰を繰り返す第二のカンブリア期が到来。
やがてヒッポカムスプス=ピッピトピトスという巻貝を祖として貝王類が生まれ、
数百万年におよぶさまざまな紆余曲折を経てこれが世界を席巻。
狩猟期、農業開始、水流利用機関の発明、地熱利用発電法の発見などを経て、
数千年かけて一部地域では安定期が到来、
文化は爛熟期を迎え、その結果自分のようなことを考える貝人類が現れる。
着想から60年かけて第一空中橋が完成し、
大天蓋計画が提案、可決。
やがて文明は2度目の崩壊と三度目の創造を迎える。
そんなことを妄想していたらどうしても貝人間が見たくなってきたので、
とりあえずアーチ型の橋の研究からはじめようかと思っている次第。
あは。